Lime JuiceLimeの活動日記
アウトドア・鉱物採集・鉱山探索・自然観察・廃墟・ガラクタ収集、その他なんでもあります。

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蛍石の産地へ・・・1 23:30
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    例年より寒い日が続いています。 私の住む岐阜県でも愛知県に近い方は比較的雪が降りにくいですが、西濃や飛騨地方になるほど雪が降りやすくなります。 その日もいつもなら遠くに見える伊吹山も鉛色の空に隠れていました。

    出かける頃には風に乗って、雪が舞っていました。

     

    朝から天気が良くなくて、現地に到着するまではずっと鉛色の空を見上げながらの運転を強いられていました・・・そのうち雪がチラチラし始めて一抹の不安も、自動車は冬用タイヤにしてあるものの、四駆ではないので慎重に走れなければなりません・・・しかし心配していたほど大降りになることなく現地付近に到着しました。

    この場所も、もう少し積雪すると、たどり着くことさえ困難になってしまうので、このシーズンで、ここでは最後の採集になりそうです。

     

    林道わきに車を駐車して、山の中を歩いてゆくと雪がある場所が意外に多くて滑るので危険! 根雪に足を取られないように、なるべく歩きやすい所を探しながら、森の中を目的地に向かって歩いてゆきました。

     

    蛍石は露頭や鉱山を含め比較的出やすい鉱物なんですが、よい結晶を探そうとすると、案外、産地は限定されてしまいます。

    県内にも有名どころが数か所ありますが、いずれも採集禁止や、市が管理して採集会をされている場所などもあり、他の面白い場所ほど山奥に入らないとたどり着けない場所が多いのが最近の現状なんです。

     

    今回はいつも採集や探索に同行してくれる水晶や光りもの好きのMORIさんが、「蛍石が欲しい」という要望もあって、以前からスケジュールの調整をしていた事と、この所の天候不順にも当たらず、この産地に足を運ぶことになりました。

    林間部には積雪があり、積もった雪をのけながら探してゆきますが、しかも薄暗くて、掘っていると出てくる凍った雪に何度も騙されながら、中々目的のものが見つけられませんでした・・・しかし目が慣れてくると、土で汚れていても透明や緑色した結晶を探すことが可能になってきます。

    IMGA0362.JPG

    写真=熱心に探すMORIさんと、奥はMORIさんのご主人 いつも仲良しのお二人です。

     

    当時、蛍石は有用な鉱物資源であったことから、人員も相当数動員されて、探鉱も各地で行われていました。そんな場所が各地に残っています。

    おもな用途は、現在の言い方でいうと「メタラジカル・グレード」と呼ばれる、金属を作るときに使用する「冶金用」が主でありました。そのため、メタラジカルグレードでは金属精錬に使うので、採取した段階ですでに高品位の鉱石が求められていたんです。

    そのため当時、蛍石の鉱山として稼働中であった場所からはズリといっても、中には目を見張るような素晴らしい物が採集できる事があります。手選をやっていたおばちゃんたちがうっかり見落としてくれた一品がまだまだ残っているんです。

    IMGA0361.JPG

     

    もう随分と前に、とある場所で偶然に出会った方・・・当時、鉱山で蛍石を掘っていた御年95歳のもと鉱夫の方に出会い、採掘当時の話しを聞いたことがあります。(以下) 当時の話を思い出しながら話してくれました。(私も覚えている範囲で記載)

    その時は、この地方でも遅い春が終わり、そのかたのご自宅くの手入れが行きとどいた庭が見える縁側にて、庭の桜の木から花びらが舞い落ちるご自宅の縁側に腰掛け、その方の奥様が淹れられたお茶をすすりながら、こんな話に耳を傾けた思い出が懐かしいです・・・

     

    「ホタル(=蛍石の事)は堆積中(たぶん堆積岩)に挟まれてあったんで、岩を掘るのは簡単だけど、脈を追っかけるのが難しいんじゃよ・・・」と教えてくださいました。

    「堆積中に白い脈が走っとって、それを追うんや・・・」

    「こいつは熱水中の鉄を引いてくるんでなぁ〜ホタルが近こうなると石英が茶色くなってくるんや・・・その錆びた脈を追うと、そこにくるまってホタルが出てくるんやで・・・」

    「削岩機を回してるとなぁ〜石英は硬いから中々進まんやけど、ホタルは”やらかい”(軟らかい)んでなぁ〜急にズボッと入る手ごたえがくるんや・・・」

    「そこがガマになっとてや、50cm〜70cmの幅で、奥に10m程度続いててなぁ〜そういう脈が見つかると、中いっぱいにホタルがつまっとるんやで・・・」

    「たまに空洞があるとなぁ〜(自分の手でこぶしを握って)握りこぶしくらいの、ほれ塩の結晶みたいなん格好しとって、桃や緑の四角の綺麗なヤツがゴッソリとれよって、大学の偉い先生が何人も喜んで持って帰りよったわ・・・」

    「欲張りな先生が、大きな塊で欲しいといいやって、そんでもってもなぁ〜ホタルは重いでなぁ・・・切羽から運ぶのは大変やっんや」

    「先生が言う・・・ええやつは、六方石みたいに透明やけど、なんかしら不純分がはいるとなぁ〜緑や桃色になっていて、カンテラを照らすと、前口は緑からはじまって、ケツに行くほど桃色に変わってたりしてホントに綺麗やった・・・」

    「透明なやちゃは脈で出るんやけど、四角にはならんかって、形のええヤツはみな色ついとったなぁ」

    IMGA0371.JPG

    今回、ズリから採取した標本 水で洗ってあります。

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    「国から専門の先生が泊まり込みで来とってなぁ。いつもクリノ(※1)を見ながら、あっち突け、こっち突けと当たりをつけながら掘り進んだんじゃ・・・」

    「2日かけて掘っても出えへん時もあって、それでもあきらめんと掘ると、また脈に当たってなぁ〜そんなんの繰り返しやったなぁ〜」

    「たまに偉い先生が来てるとなぁ、外の発電機からケーブルを引いてきて、中でアーク(※2)を焚くんや・・・」

    「アークは紫外線が沢山含まれてるんで、目が焼けるといわれてたなぁ〜アークをともすと壁のホタルの部分は青く光ってなぁそりゃ綺麗やったで・・・」

    「戦時中は火薬はもったいないんで、発破はできせん・・・ほとんどが削岩機で掘ったり、時にはスカシ(※3)をかけて一気に崩して採ったりしたんじゃぁよ・・・」

    「仕事は大変やったよ・・・そんでもなぁ・・・雪がおおて冬は林業の仕事にもならへんかったこんな場所でも、ここだけはにぎわっとってなぁ〜富山から毎日のように行商が来て、うまいもんはぎょうさん食えたんや・・・給料もよかったで・・・」

    「わしら”わけいもん”(若い者)は、いずれ戦争に行かんなぁあかんので、国もヤマで死んでもうたらこまるっていってな・・・」

    「なかなか・・・切羽には入れてくれんかったんや・・・」

    「そや・・・スカシは怖いんやで・・・」

    「東北のホタル鉱山(蛍石の鉱山の事)では、スカシをかけて掘ったあと、あとから天板が落盤しよって何人か死んだと聞かされてホント怖かった・・・」

    「でもそういった危険作業は、ほとんど海の向こうの人たちがようやらされとったんよ・・・」

    「出稼ぎに来とる衆の中に、新潟の方で働いてた人がいてなぁ〜新潟の○○鉱山でも落盤があってなぁ、事故の事はよう聞いたなぁ〜」

    「事故にあうと・・・もう頭とかひしゃげてまっとてなぁ、ヘルメットかぶとってもなぁ、どんな石頭でも・・・骨が粉々になって、鼻から脳みそ全部飛び出て頭が潰れてしまうんや、もうそうなるとだれかわからへんかったと聞いた・・・」

    「そんなんで、大勢死ぬとだれやわからへん事があって、遺体を棺桶に詰めるときに、足にホクロ無いんで・・・うちの人やあらへん!!と・・・おっかぁ(奥さん)が騒ぎ始めてなぁ、大騒動になったらしいんやで・・・」

    「ほんでもって、崩れたとこもう一回探したら、もう一人埋まっとって、その人がその奥さんの旦那やったんやで・・・かわいそうに・・・」

    「結局、初めに潰れて見つかった人はあっちの国の人やったんや・・・日本まで連れてこられてかわいそうなもんや・・・」

    「ホタル採れる穴は、挟みがおおて岩盤が強よないので・・・うっかりしとると潰されるんで、こわかったなぁ〜」

    「山向こうの鉱山から、栗の坑木(※4)をたんと(沢山)分けてもらってなぁ・・・支保屋(※5)がいつも大忙しやったで」

    「事故でヤマが止まるのはあかんで、遺族には口止めにカネ積んで、はよう作業が再開やったわ・・・」

    「兄ちゃんも、ホタルの穴だけは入ったらあかんで・・・」

    まぁこんなやり取りが終わって、このあと、近くにある選鉱場の跡や、尾根向こうにあるズリ捨て場を教えて頂きお別れしました。

     

    Limeの鉱山用語集

    ※1 クリノ=クリノメーター(方位磁石と傾斜計が付い探鉱用具の一つ)地質調査の3種の神器と言われる。

    ※2 たぶん当時なら「炭素棒式放電灯」の事 強い紫外線が出る。

    ※3 スカシ=スカシ掘り 露天掘りでは多く使われた方法、比較的岩盤がもろい場所では、坑道内でも多用されて事故が絶えなかった工法の一つ。 30cm〜50cmの支え柱を残して切羽を刻む、そのあと残した支え柱にワイヤーをかけて引いたり、火薬を仕込んで柱を発破すると、支えが無くなった上の部分が人工的に(落盤する)崩れるので、火薬の使用量を抑えれる。

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    この上の岩盤を崩すために行ったスカシ掘りの写真

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    スカシ掘りされた所の内部の様子、この柱を発破を用いて壊すと上の部分が崩れる。

    スカシ掘りは危険で、熟練者でも支え柱の付け方に失敗して、作業中に落盤が起こり命を落す者が絶えなかった。 本来は、露天採掘に山を崩して採鉱する時に使われるが、火薬消費を避けるために戦時中はこの危険な方法を多用する鉱山もあったと聞く、時には崩れそこなった残置岩盤が、採掘中に落盤して生き埋めになったりすることも多かったと聞きました。

    花崗岩などのガチガチの岩場では使えなくて、比較的崩れやすい岩盤の鉱山で多用されていました。

    ※4 栗の坑木 栗は水に強く樹勢も強いので、簡単に栽培されて当時は多くの鉱山で使われていました。坑木には栗の木が一番と言われている。

    ※5 支保工の事、坑木を使って坑道を補強する人たちの事、当時の大きな鉱山だと専門に生業にしている人たちがいます。

     

    当時では採掘された蛍石は、戦需要として鉄を作る時に溶ける温度を低下させて、効率を上げて鉄を作るために使われていました。蛍石は不純物が含まれるスラグの流れが良くなるので、flow(流れる)という意味から、ホタル石の語源が fluorineとも呼ばれています。

    そのあと、マンガンやモリブデンを添加されてより強固な鉄にすることで、当時は色々な鉄製品や戦時中は武器の材料に使われていました。 なのでマンガン鉱山がそこらじゅうにあったり、モリブデンが採れる輝水鉛鉱の鉱山が大規模に開発されていたわけで、戦時中は特にモリブデンとタングステンは重要な軍需資源でありました。

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    おじいさんの話に出てきた、茶色い石英と、その中に点在する蛍石の塊

    今回採集したもの中では、比較的大きなもの20cm×20cm大

     

    第2話に続く・・・

     

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