銅の精錬 Vol.3 高温熔解炉の設計 | 00:12 |
寒気が入って急に寒くなって来た・・・東日本では突然の雪になっている所もあるらしい・・・遠くに見える伊吹山は鉛色の雲にさえぎられて、この地方独特の冬の天気が到来だ・・・
やっと冬らしくなってきたので・・・私にとっては体を動かすには最高のコンディションです
さて・・・色々と立て込んでいる銅の精錬・・・本日いよいよ学生さんが私の家に泊まりがけで来て、精錬作業のワークショップを行う
その前に、2週間ほど前に設計した高温熔解炉の試運転を行った。
溶解炉と言っても決して大袈裟な物では無く、前回行った七輪での不具合を補完し、より高温運転に耐える事ができて、なおかつ大きな坩堝でも長時間の加熱に適した保温性を持たせたものになった。
まずはCADで大体の外観を設計して、熱シュミレーションソフトで耐火物の厚さなどを割り出した。
熱管理士の資格を持っているので昔は手計算でやっていましたが、歳をとると共にそういった作業が格段に面倒になってしまい、最近は頭のいいこういったシュミレーションソフトに頼る事が多くなってしまいました。
炉と言うものは、内容物の温度をどれくらいに保つか、それといかに外部への放熱を少なくするかなどなど・・・色々条件を考慮して設計しなければならない、炉体が大きくなれば、それだけ処理量が大きくできるが、反対に燃料のコークスが沢山いるので、できるだけ燃料を節約するのと使用する坩堝に適当な大きさの物を設計してみた。
できるだけ身の回りにあるものを使い、簡単に作りたいので、行きつけのガソリンスタンドで古いペール缶を譲って頂き・・・
今度は知り合いの築炉会社の方に頼んで、耐熱煉瓦と耐火キャスターを格安で分けてもらいました。 これまた運がいい事にいつも公使混同でいい意味で懇意にしているので、高級品のアルミナ耐火煉瓦や保温用のアルミナウールなどを「余ったので持ってけ!!」と言って譲ってくれた。
本当に嬉しい・・・これでシュミレーション以上の保温効果を持たせれるので、熱効率がいい炉の設計ができる事になった。
ほんとに感謝感激である。
まずはガソリンスタンドで頂いた機械油が入っていたペール缶を半分に切ります。
これは、開閉式の炉蓋を作るために残しておきます。
でかいコンパスをつかって炉蓋の中心に開ける穴の位置をケガキます。
センターを出したら中心にポンチを打ちます。
このままボール盤にセットして、ホールソーで穴をあけます。
ここが熱の排気口になります。
ペール缶の上蓋はドライバーでカシメ部分を起こせば、簡単に外すことは可能ですが、再び完全に密閉させる事が難しくなるので、できるだけ外さない方法を考えて作業した方がいいです。
穴のあいた部分に塩ビ管を差し込み、この周りに耐火物を流し込み、耐火物が固化したら塩ビ管を引き抜けば、排気の穴をあける事が可能です。
さてさて、こちらは炉体側に使うペール缶です。 どのみちボロボロになるので、多少汚くても大丈夫です。性能に変わりありませんので・・・
同じように今度は、送風口を付けます。 コークスや木炭で高熱を発生させるには、大量の空気を送る事が必要なので、ファンからの送風をするための穴をあけます。
今度は炉蓋側に使う耐熱保温板を切り出します。
続いて・・・送風口用の羽口用の入れ子を作ります。(仕組みは後で・・・)
送風口になるべくぴったりと合うサイズに新聞紙を巻きます。
サイズが決まったら、ガムテープで新聞紙が広がらないように固定します。
その上から、新聞紙に防水性を持たすために、丈夫なビニール袋で覆います。 耐火キャスターは水で練って作るので、新聞紙が濡れるとこのキャスターが硬化するまでに送風口が潰れてしまうので、絶対に水が入らないようにします。
あと新聞紙で作ることで、この入れ子が万が一固まったキャスターから抜けなくても、火を入れて焼いてしまえばいいわけなので、このように新聞紙で作ります。 なので・・・サイズ次第ではラップの紙芯などでも作る事が可能です。
計算上では、ペール缶の内側に貼りつける耐火物の厚さは、約50mmもあれば・・・・内部の温度が1500℃を越えてもペール缶の外への放熱は60℃前後に保つ事が出来る設計です。
その厚さになるように、耐火物を流し込む為にその厚さをキープできるような、入れ子をホームセンターで探してきました。6角形状のプラ製の薄めの植木鉢です。水抜きの穴はガムテープで塞いでしまい使用します。
耐火物が硬化した後、抜けなくなる恐れがあるので、必ずこのようなテーパー状の物が適しています。 そしてこの後この植木鉢の表面に、ロウソクの蝋を擦りつければ準備OKです。
耐火物の材料は、園芸用のパーライト
耐火キャスタブル(キャスター)とも言います。 1800℃までくらいなら耐えれる事が出来ます。
しかしこれだけでは、外に熱が伝わって熱効率が悪くなるので、水で混練する際に、キャスター6に対して・・・パーライトを4くらいで混合します。
火に接する部分は損耗してゆきますが、パーライトの保温性で熱が外に逃げなくて、燃料の節約と同時に高温を出す事が可能となります。 でもそれだけでは、まだまだ未完成!!
適当な容器にパーライト4杯入れたら、今度は別の容器に耐火キャスターを6杯程度同じ容器でとりわけます。
この時に、全部をいきなり混ぜようとすると凄い労力になるので、まずは耐火キャスターを軟らかめに練っておき・・・そこにパーライトを入れて混合するほうが無難です。
耐火キャスターはホームセンンターにあるモルタルとは違って、耐熱性のモルタルのに、シャモット質という耐火物のガサガサした砂粒のような物が入れてあります。
なので水を入れて練るとジャリジャリします。
このような流し込みと突き固め作業の際は、私はいつも水を多めに入れます。 ここにパーライトを入れるとそれでももっと硬めになります。
ペール缶の底に、植木鉢の入れ子が沈まないように、耐熱煉瓦を切ったものを敷いて、それを覆うように練ったものを入れて、棒で突き固めてゆきます。
植木鉢が浮きあがってこないように、重しの耐熱煉瓦を入れてから、その周囲に練ったキャスターを詰めてゆきます。
一度に入れてしまわないように、10cm程度入れたら、木の棒などを使ってまんべんなく突き固めます。
写真を撮り忘れてしまいましたが、送風口には新聞紙をビニール袋で包んだ物を挿入して、植木鉢の壁にできる限り近づけて固定しておきます。 突き固めの際は、まずはこの部分を重点的に行います。
キャスターにパーライトを入れてた様子
入れ子にした、植木鉢の端面ギリギリまでキャスターを突き固めて入れたら、この状態で約1週間程度養生すれば完全に硬化します。
送風口の丸めた新聞紙の部分は、硬化するまで位置が変わらないように、下に物をかって位置合わせしておくといいでしょう。
そして硬化するまでは、雨があたらない場所に移動しておきましょう。
さて今度は、炉蓋のキャスター打ちです。
キャスターの固定するために、50mm程度の曲げしろを切っておきます。
内部に耐熱保温板をセットしてから、同じようにキャスターとパーライトを混ぜたものを流し込んでいきます。
ある程度流し込んだら、ペール缶の切ってある部分をキャスターの方に折り曲げてこのような物を成型します。
切った部分をすべて曲げたら、更にキャスターを流し込みます。 この時に重要なのは、キャスター内部を必ず窪ませる事!!
これは、内部の熱がこの部分で反射して、まるで凹面鏡のように炉の中心部に置いた坩堝に熱が反射させることで、より高温状態を作り出す事が目的です。
昔の反射炉も、天井部分のアーチが熱を反射して熔解物を溶かしていた事に由来します。
水が引いて硬化し始めたら、中心を窪ませるようにコテでならします。
炉体本体側も水が引いて硬化し始めたので、端の部分のキャスターをならします。
この後、植木鉢にあう太い塩ビ管を入れて、端面を水平にならします。
ならす際は、使用するコテは必ず焼き入れしたハガネ製の物を使用しないと、キャスターがコテに付着して綺麗にならせなくなります。使うコテは古いものですが最高級品なので、当時でも1本あたり1万程度しましたが、現在このコテを作る職人が居なくなってしまったので、今同じようなコテを購入しようとすると2万〜3万程度します。ちなみにホームセンターの量産品では仕事になりませんので、結局的には「安物買いのゼニ失い」になりかねませんので注意が必要です。
硬化したら、入れ子にしたプラ製の植木鉢を取り外します。
もし抜けなかったら、このまま炭を入れて焼いてしまう手もあります。
うまい具合に外せれたのでラッキーです!!
このまま勢いに任せて、使用すると内部に含まれている水分が膨張した際に、折角綺麗にできたの物が割れてしまうので、暖かい日に必ず乾燥させます。
割れたりヒビが入るとそこから熱が外部に逃げることで、燃焼のロスにつながるので、何事も先を見て慎重に作業してゆきます。
勢いに任せて突貫工事を行うと後から痛い目に合うので、初めの設計段階にてきちんと最終形を意識して、火入れまで慎重に行います。
キャスターの表面が湿っぽくなくなったら、完全に乾燥させるために、少量の木炭を入れて火を付けてBBQできる程度の火力を維持して、完全に水を抜く事も可能です。 この時は木炭に火が回ったら上蓋も載せて・・・蓋のキャスターの水分も抜きます。
絶対に最初から高温にしてはダメです。
プラ鉢の形状がコピーされています。
底の部分まで綺麗にキャスターが回っているので成功です。
水を含んでいる間は、凄く重たいですが、水が抜けるとパーライトの空隙もあいまって2割ほど軽くなります。
そして断熱効果が出てきます。
七輪と比較してもかなり大きくなっています。 ボロボロになった七輪は、余ったキャスターで修正をしてみました。
完全に乾燥しているので、今日はコークスを入れて試運転をしました。
コークスに十分に火が回ったので、坩堝をセットして・・・銅鉱石の焙焼を行いました。
内部は1000℃以上に上がっているはずですが、ペール缶の表面は手で触れる温度です。 その証拠に外側の印刷の塗料が一切焼けていません。 さすが・・・最近の「熱力学シュミレーション・ソフト」はすごいです。
さてさて、今日のお昼には学生さんが来るので、全開で動かすのがとても楽しみです。
こういった物は素人でもある程度作れるものです。 固定式の本格的な炉床を作るのは大変ですが、このような物でも十分な火力を得る事が可能で、自宅で鍛冶仕事をしてみるハードルが下がるはずです。
この炉は1000℃程度で使用するならかなり長く使用する事は可能だと思います。
自分でナイフを鍛造したりする可能性が広がります。
それでは、ここまで読んで頂きありがとうございます。
今後の銅の精錬作業については、また報告させてください。
ではでは・・・